今年、この世界的な経済危機にも関わらず、ミラノサローネ期間中はミラノに明るい風をもたらしました。
第48回の今回、ミラノサローネ見本市会場への入場者数は308,000人。2007年の270,000人に対し大幅な増加であったばかりか、当初の予測300,000人をも上回る結果となりました。ちなみに、ミラノサローネでは、毎年開催される家具部門のほか、ユーロクチーナ(Eurocucina、キッチン部門)、ユーロルーチェ(Euroluce、照明器具部門)が交互での開催になるため、比較には1年おきの統計を取っています(今年はルーチェ)。
「ただ単に、訪問者や、建築家やデザイナー、関係者の人数が多かったというだけではない」。ミラノサローネを運営するCosmitの代表、カルロ・グリエルミ氏は満足を隠すことなく答えています。「期間中、サローネのブースでは実際に契約のサインが取り交わされていた。」
経済危機の影響が比較的少ない産業のうちの1つとはいえ、業界関係者にとって大いに勇気づけられるシグナルであり、やたら悪い空気ばかりが蔓延するこのご時世において、ミラノ郊外にある見本市会場のみならず、ミラノ市内の各地もまた、ほかでは見られない活気で沸きました。サローネフォリは、ミラノという町の(再)活性化の大きな潮流となりました。
また、同CosmitFederlegnoArredo(木工家具組合)とは、大地震のあったアブルッツォ州における再建工事に手をさしのべること、を発表しました。これには、日本の建築家、坂茂氏とイタリアのマリオ・クチネッラ氏の手を借りることになっています。
(コリエレ・デッラ・セーラ・マガジン、5月7日号)
「経済危機」が声高に叫ばれる中、大盛況のうちに幕を閉じた2009年のミラノサローネ。前述の通り、会期終了後に大満足のコメントを残した主催者代表のグリエルミ氏ですが、この成功は開催前のインタビューでも、この成功に確信を持って答えていました。
「家具は家そのものだ。イタリアでは、まさにそう認識されている。・・・家具は生活のあらゆる局面において根本的な重要性を担っていると考えられている。」
4月22日から27日まで開催のミラノサローネには、202,350平方メートル、実に2723企業(うち911が外国)が出展。もはや同業界では世界で一番重要となった展示会は、この国際経済危機において、イタリア家具業界の実態を示すこととなりました。
「家庭用、それ以外を含む木製家具業界、および照明器具、システム家具、木製建材、梱包、半完成品等は、イタリア経済にとって主要な業界の1つ。製造業において企業数で75,300は第2位、従業者数408,000人は第6位にあたる。2008年には、375億ユーロ以上の売上を計上し、134億ユーロの輸出、うち差額が66億ユーロを超えた。
2008年は、2年間の上昇気流の後ということもあり、特に難しい年だった。総売上は前年比5.6%減となった。これは、内需の大幅ダウンが-7.8%と大きく影響した。一方、輸出に関しては2%減にとどまった。それも、同業界の80%以上を占める家具に絞っていえば、減少傾向はわずかだった。内需の冷え込みが、輸出の伸びと相殺し合ったと言える。ロシア、ギリシャ、アラブ首長国連邦では相変わらず好調だが、ドイツ、英国、米国は悪化した。
照明器具分野は、経済危機の影響がより少ない。2,000企業、20,000人の従業員を抱えるが、傾向は悪くない。それどころか、2007年の6,5%増という記録的な数値にはかなわないながらも2008年も前年比1,3%の伸びを見せた。国内、輸出とも順調。もっとも、後半数カ月はこの業界でも厳しい展開となったが。
まず、この業界はほかほど経済危機の影響が重くない。たとえば、ファッション業界などとは比べものにならない。もちろん不安はある。特に今、われわれの世代は、これまでにこれほど大きな危機、国境を越え、企業から企業へと連鎖していくような危機に直面したことがなかった。・・・ここから脱出するには、前の世代がどう危機を切り抜けてきたか、その知恵を学ぶ必要がある。・・・事業主として思うに、努力を重ね、事業に投資し、新しい製品を生み出さねばならない。
サローネが、経済危機をどう被るか?今年は12,000の新製品が展示される予定、といえば十分かな?私からみるとこれは例外的なできごとであり、カタストロフィー(危機)にどう立ち向かうかを示していると思う。
新製品、特に、技術開発が経済危機を乗り越えるのに一役買う。照明器具に関していえば、エネルギー節減は製品製造において、もはや原則となった。浪費の抑制への義務は技術革新への強い圧力となり、その結果はユーロルーチェで見てとれるだろう。
もう1つ重要な要素は、文化だ。サローネはミラノに、世界中から、企業、デザイナー、設計者、見学者、報道関係者を呼ぶ。5大陸のインテリジェンスが集まり、それぞれが、それぞれの文化を背負ってくる。我々の特徴は、異なる文化の中にあるさまざまなニーズを、聴き、集め、再解釈してプロジェクト化する、その力にある。
かつて町の中には、建具屋通り、靴屋通り、といった同業職人の集まる通りが存在した。それが現代においては、より広範囲で、つまり、フリウリ地方の椅子、ブリアンツァのモダン家具・・・といった特化地域を生み出した。が、最近はまた変わりつつある。背景の違う企業が登場し、また別のアイデンティティーを作り上げている。根底には常に美への追求、見た目だけではなく、品質も含めた追求がある。技術革新は、特化の顕著な地域においてもまた重要である。特に、危機を乗り越えるためには。木製の伝統を持ち、それにこだわりすぎる企業は、残念ながら現在、より深刻な危機に直面している。」
(コリエレ・デッラ・セーラ・マガジン、4月16日号)
「デザイン」が国を代表する重要な産業の1つであるイタリアでは、専門誌だけなく、日ごろから一般日刊紙でも、「デザイン」に関する記事が多く掲載されます。最大日刊紙の1つ、「ラ・レプッブリカ」紙では、毎週月曜日の経済別版に必ず「モード&デザイン」欄が3-4ページあるほか、ファッションや車など、デザインに関する大きなイベントの際には特集別刷りのほか、たいてい毎日ページを割いて詳細にレポートします。このミラノサローネ期間中も、「コリエレ・デッラ・セーラ」紙は、やはり毎日サローネ特集を1ページ設けていました。実際に期間中に掲載された内容を、簡単に紹介してみましょう。
まず、開催前日の21日。すでにインスタレーションの行われているいくつかの「フォリ」の写真とともに、参加企業数、訪問者数予測などの概要を紹介。参加者、訪問者が減るどころか、今回、期間中のホテル価格が相変わらず暴騰、通常の5倍を提示するところもあったとか。一方でミラノ県は、特にフオーリを見学にやってくる若者たちのために、ベッド・シェアリング・システムを提案したそう。
22日。今回の一番の共通のテーマは「エコ」。クリーン・エネルギー、ゼロ・エミッション、リサイクルなどを駆使した、あらゆる新しい提案こそがアンチ経済危機である、とうたっています。
23日。照明器具も、やはり大きなテーマはエコ。新技術が新しい可能性を生み出す一方、9月より白熱灯の製造中止とするEUの決定には、疑問も投げかけています。この影響を受けて、カスティリオーニのArcoをはじめとする、もはや定番となっているデザイン商品も、変更を余議なくされるそうです。
24日は、主に新素材の開発に着目。「デザイン」が、もはや見た目だけではなく手触りも重視したものになってきた、というジュリオ・カッペッリーニ氏。そして、イタリアからみると、ハイテクかつ洗練されたデザインの国ニッポンを代表するデザイナーの1人、吉岡徳仁さんがイタリアのソファー・メーカー、Moroso用にデザインしたPaperCloudが大きな写真入りで紹介されました。
25日は、やはり外国から。スェーデンの若手女性4人によるFront 。ソファーやテーブル、椅子から照明まで、幅広いデザイン家具で注目されるほか、イケアともコラボしているこのグループが、ミラノサローネに初めてやってきたのは、6年前。会場の一部で開催されるデザイン関連の学生によるコーナー、「サテリテ(Satelite)」への出展だったそう。以来ミラノを、成功するために必須の通過点であり、「可能性の場」と定義しています。
主催者代表のグリエルミ氏のコメントにあるように、イタリア国内の重要な産業を一気に展示する一方、外国の購買者だけでなく、クリエイターをも引き付ける求心力こそが、このミラノサローネの魅力であり、実力なのでしょう。 来年もまた、やはり見逃せないイベントであることは間違いありません。 |